介護の現場の援助技術|困難事例の解決も「向き合うこと」と「寄り添うこと」の使い分け
介護の現場では、食事・排泄・入浴など
利用者に直接関わる援助を行う機会が多くあります
そのため事業所によっては
- 「こんな時は、こう対応しましょう」
- 「こんな時は、こんな声をかけましょう」
といった、対応方法やマニュアルが用意されていることもあるでしょう
もちろん、マニュアルは大切です
しかし、介護の仕事はマニュアル通りにいかないことがたくさんあります
同じ言葉をかけても
安心する人もいれば
不安になる人もいます
昨日は受け入れてくれた援助を
今日は「嫌だ」と拒否されることもあります
なぜなら、私たちが向き合っているのは
単なる「お客様」ではなく
それぞれに気持ちや考え、生活してきた背景を持つ一人の「人」だからです
そこで大切になるのが、「対人援助技術」です
難しい専門技術のように聞こえるかもしれませんが、普段の介護現場でも私たちは
- 相手の話を聞く
- 気持ちを考える
- 必要なことを伝える
- 一緒に解決方法を考える
といった関わりを繰り返しています
こうした関わりがうまくいくと、利用者の安心や信頼につながるだけではありません
「この人には話しても大丈夫」
「この職員ならお願いできる」
そんな関係ができることで援助がスムーズになり
援助する側にとっても仕事のやりやすさや楽しさにつながっていきます
僕が介護や福祉の現場で16年働いてきた中で
経験として学び大切にしているのが
「向き合うこと」と「寄り添うこと」の使い分けです
何でも相手の気持ちに寄り添えばいいわけではありません
反対に
正しいことを伝えて向き合えば、すべて解決するわけでもありません
寄り添った方がいい場面と
しっかり向き合った方が良い場面があります
こういった対人援助技術を自分なりにみつけ
活用することで
僕自身は介護職員として10年、児童福祉の現場で5年
初任者研修の講師経験の中で
自然と利用者あるいは家族対応のスキルも上がり
相談援助の仕事も少しずつ担えるようになってきたと感じています
この記事では、この2つの関わり方を
介護現場で起こりやすい事例を交えながら紹介します
使い分けを意識できるようになると
利用者との対話、信頼関係の構築、困難な場面への対応にも活かせます
- 「利用者との関わり方が分からない」
- 「何度説明してもうまく伝わらない」
- 「対応が難しい利用者にどう接したらいいんだろう」
そんな悩みがある方は、ぜひ一つの援助技術として参考にしてみてください
「向き合う」とは、お互いの考えを知ること

まずは「向き合う」という言葉を、物理的な姿勢からイメージしてみましょう
「向き合う」とは、お互いが正面に位置して関わること
そして、介護や福祉の現場では
できる範囲で相手と目線の高さを合わせることも大切です
立っている職員が座っている利用者を見下ろしながら話すのではなく
しゃがんだり椅子に座ったりして、相手と同じくらいの目線から関わってみる
そのうえで、相手と対話します
ここで大切なのは
必ずしもきれいな「会話のキャッチボール」を成立させる必要はないということです
相手が興奮していたり
うまく気持ちを言葉にできなかったり
こちらの話を聞ける状態ではなかったりすることもあります
そんなときでも
- 相手の主張や気持ちを、まず受け止める
- そのうえで、自分の考えや気持ち、必要な情報を伝える
この2つを意識してみます
たとえば、援助を拒否している利用者に対して
「でも、やらないと困りますよ」
と、いきなりこちらの要求を伝えるのではなく
「嫌なんですね」
「今はやりたくないんですね」
と、まず相手の気持ちを受け止める
そのうえで
「でも、僕は○○さんのことが心配です」
「こういう理由があるので、できれば一緒にやりたいと思っています」
と、こちらの考えも伝えてみます
相手の希望をすべて受け入れることと
相手の気持ちを受け止めることは別です
まずは
「自分の気持ちを聞いてもらえた」
と感じてもらう
そのうえで
「こちらはこう考えている」
という情報を相手に渡します
すぐに問題が解決しなくても構いません
お互いの考えを知ることができれば
それだけでも
「どうすればいいのかを一緒に考えるためのスタート地点」に立つことができます
これが、僕の考える「向き合う」という援助です
相手の心を知ろうと考える練習を積む「SST」について考察した記事もあります
→SSTで「相手の気持ちを考える」には?発達支援で大切な目標設定と支援のポイント
「寄り添う」とは、相手は世界がどう見えているのかを想像すること

「寄り添う」も、まずは物理的な姿勢からイメージしてみましょう
「寄り添う」とは、相手の隣に並んで立つ、あるいは座ること
「向き合う」が相手の正面に立つイメージなら
「寄り添う」は相手と同じ方向を向くイメージです
そして僕は、「寄り添う」ときには
必ずしも会話をする必要はないと考えています
もちろん、話したければ話しても構いません
でも
- 隣に座る
- 相手が見ている方向を見る
- しばらく一緒に過ごす
それだけでもいいのです
たとえば、利用者が窓の外をずっと眺めているとします
「何を見ているんですか?」
「どうしたんですか?」
とすぐに質問するのではなく
その人の隣に座って、自分も同じ景色を眺めてみる
すると
「ここからは、こんな景色が見えるんだ」
「この人は、いつもこれを見ているんだな」
と気づくことがあります
そして、その時間を共有しているうちに
「この人は今、どんなことを感じているんだろう」
「何を望んでいるんだろう」
「自分にできることは何だろう」
と、自然に相手の立場から考えられるようになります
つまり、同じ景色を物理的に見ることから
少しずつ「相手からは世界がどう見えているのか」を想像することへ移っていくのです
もちろん、同じ景色を見たからといって、相手の気持ちがすべて分かるわけではありません
大切なのは
「分かったつもりになる」のではなく
「分かろうとする」こと
言葉で答えを求める前に
その人と同じ時間や空間を共有してみる
それも、介護や福祉の現場における大切な「寄り添い方」の一つだと僕は考えています
「向き合う」と「寄り添う」はどんな場面で使い分ける?

ここまで「向き合う」と「寄り添う」について説明してきました
では、実際の介護現場ではどのように使い分ければいいのでしょうか
僕は、どちらが正しい・間違っているというものではなく
そのときの利用者の状態や、援助の目的によって使い分けることが大切だと考えています
一つの目安として、次のように考えてみてください。
| 利用者の状態・場面 | 関わり方の目安 |
|---|---|
| 不安そう・落ち込んでいる | まず「寄り添う」 |
| 興奮して話を聞ける状態ではない | まず「寄り添う」 |
| 本人の希望や考えを聞きたい | 「向き合う」 |
| 援助を拒否している | 寄り添う → 向き合う |
| 本人と一緒に解決策を考えたい | 「向き合う」 |
| 気持ちをうまく言葉にできない | 「寄り添う」 |
たとえば、利用者が怒っているとき
こちらが正面から
「どうしたんですか?」
「何が嫌なんですか?」
「こうした方がいいですよ」
と話しかけても、うまくいかないことがあります
本人がまだ「人の話を聞ける状態」になっていないからです
そんなときは、すぐに問題を解決しようとせず
まずは「寄り添う」
「嫌だったんですね」
「今はやりたくないんですね」
と気持ちを受け止めたり
場合によっては何も言わず、そばで一緒に過ごしたりします
そして少し落ち着いて、こちらの話を聞けるようになったら
「どうしたかったですか?」
「僕はこうしたらいいと思うんですが、どうですか?」
と、今度は「向き合う」関わりに切り替えていきます
つまり
寄り添う
↓
気持ちを受け止める
↓
落ち着く
↓
向き合う
↓
一緒に考える
という流れです
もちろん、すべての利用者や場面がこの流れに当てはまるわけではありません
最初からしっかり向き合って話をした方がいい人もいれば
言葉よりもそばにいることを必要としている人もいます
だからこそ大切なのは
「自分が何を伝えたいか」だけではなく
「今、この人はどんな状態なのか」を見ることです
そして僕は、どちらを選べばいいか迷ったときには
まず「寄り添う」ことから始めてみる
のも一つの方法だと思っています。
相手と同じ目線に立ち、気持ちや状態を知ろうとする
そこから必要に応じて「向き合う」に切り替え、一緒に解決方法を考えていく
「向き合う」と「寄り添う」を別々の技術として考えるのではなく
行ったり来たりしながら使い分ける
この意識を持つだけでも、利用者との関わり方の選択肢は増えていくと思います
困難事例で考える|「寄り添う」と「向き合う」の実践例

では実際の介護現場では、「寄り添う」と「向き合う」をどのように使えばいいのでしょうか
ここでは、現場で対応に悩みやすい
「入浴拒否」と
「帰宅願望」を例に考えてみます
大切なのは、最初から「どうやって説得しよう」と考えないことです
まずは
「なぜ、この人はそうしたいのだろう?」と考えるところから始めます
事例①「お風呂には入りたくない!」と入浴を拒否された
入浴の時間になり、利用者に声をかけたところ
「今日は入らない!」
と強く拒否されたとします
職員としては入浴してほしいので
「今日はお風呂の日ですよ」
「入らないと身体がきれいになりませんよ」
と説明したくなるかもしれません
しかし、本人が強く拒否している状態でこちらの考えを伝え続けると
利用者「入りたくない」
職員「入ってほしい」
という対立になってしまうことがあります
こんなときは
一度「入浴してもらう」という目的から離れて
寄り添うことから始めてみます
「今日は入りたくないんですね」と
まずは、その気持ちを受け止める
ここで重要なのは
「入りたくない」という気持ちを受け止めることと
「入らなくていい」と決めることは別だということです
本人が落ち着いてきたら
今度は「向き合う」に切り替えてみます
「何か嫌なことがありますか?」
「僕は身体のことが少し心配なんです」
「どうしたら入りやすそうですか?」
と、本人の考えを聞きながら、こちらの考えも伝えます
すると
「寒いから嫌だ」
「昨日入ったと思っていた」
「男性職員に介助されたくない」
など、拒否していた理由が見えてくるかもしれません
理由が分かれば
「入浴させる方法」ではなく
「本人が安心して入浴できる方法」
を一緒に考えられるようになります
事例②「家に帰らなきゃ」と繰り返している
もう一つ、認知症のある利用者が
「家に帰らなきゃ」
「そろそろ帰ります」
と繰り返している場面を考えてみましょう
ここで
「ここが○○さんの家ですよ」
「今日は帰れませんよ」
「さっきも説明しましたよ」
と事実だけを伝えても、本人の不安が解消されないことがあります
そんなときも
まずは寄り添うことから考えてみます
「帰りたいんですね」
「何か気になることがありますか?」
あるいは、無理に質問を続けず
一緒に窓の外を眺めたり
少し歩いたりしてもいいかもしれません
大切なのは
「帰る必要があるかどうか」だけではなく
「なぜ帰りたいと思っているのか」
に目を向けることです
「子どもが帰ってくるから、ご飯を作らないと」
そんな言葉が出てくるかもしれません
そうすると、「帰りたい」という言葉の奥に
「家族のことが心配」
という気持ちがある可能性に気づけます
そこで初めて
「ご家族のことが心配なんですね」
と向き合うことができます
もちろん
相手の本当の気持ちが必ず分かるわけではありません
それでも
「帰れないことを理解してもらう」ことだけを目的にするのではなく
「なぜ帰りたいのか」を一緒に考えてみる
それによって、その人に必要な援助が見えてくることがあります
困ったときこそ「行動」ではなく「気持ち」を見てみる
入浴拒否なら
「どうすればお風呂に入ってくれる?」
帰宅願望なら
「どうすれば帰りたいと言わなくなる?」
と考えてしまいがちです
しかし、そこで少し視点を変えて
「なぜ入りたくないんだろう?」
「なぜ帰りたいんだろう?」
と考えてみる
そして、すぐに答えを出そうとせず
まず寄り添ってみる
少しずつ相手の状態や気持ちが見えてきたら
今度は向き合って、一緒に方法を考えてみる
寄り添う
↓
相手を知ろうとする
↓
向き合う
↓
一緒に考える
この流れを持っておくと
マニュアルだけでは対応しにくい場面でも
援助方法を考えるための一つの手がかりになります
困難事例に出会ったときこそ
「この人をどう動かすか」ではなく
「この人には今、何が起きているんだろう」と考えてみる
それが、「人」と「人」として関わる対人援助のスタートだと僕は考えています
まとめ|「分かったつもりになること」より「分かろうとし続けること」が大事

今回は、介護現場における対人援助技術として
「向き合うこと」と「寄り添うこと」について紹介しました
この記事の内容を簡単にまとめると
「向き合う」とは
相手と正面から対話し
- 相手の気持ちや主張を受け止める
- 自分の考えや気持ちも伝える
- 一緒に解決方法を考える
という関わり方です
一方で、「寄り添う」とは
相手と同じ目線に立ち、同じ方向を見ながら
「この人は今、どんな気持ちなんだろう?」
と考えてみることです
必ずしも言葉は必要ありません
そして
この2つはどちらか一方だけを使うものでもありません
利用者の状態に合わせて
寄り添う
↓
気持ちを受け止める
↓
向き合う
↓
一緒に考える
と行ったり来たりしながら使い分けていきます
入浴拒否や帰宅願望など
一見すると「対応が難しい」と感じる場面でも
「どうすれば言うことを聞いてくれるだろう?」
ではなく
「なぜ、この人はそうしたいんだろう?」
と考えてみる
それだけでも、援助の方向性は変わってきます
もちろん
どれだけ丁寧に関わっても
相手の本当の気持ちを100%理解することはできません
だからこそ、僕は対人援助では
「分かったつもりになること」より
「分かろうとし続けること」
が大切だと思っています
マニュアルや援助技術を覚えることも大切です
でも、その技術を使う相手は
一人ひとり違う人生を歩んできた「人」です
正面から向き合った方がいいときもある
隣で静かに寄り添った方がいいときもある
その都度
「この人にとって、今必要な関わり方は何だろう?」
と考えてみてください
そうやって相手のために考え、試して
また考えること自体が、対人援助の大切な部分なのだと思います
そして、利用者との信頼関係が少しずつ築かれて
「この人のために、自分にもできることがあった」
と思える経験が増えていけば
それは支援者自身の仕事のやりがいや楽しさにもつながっていきます
介護の仕事は
「人」と「人」が関わる仕事です
だからこその難しさがありますが
人と関わる仕事だからこそ
やりがいを感じられる側面もあります
「向き合う」と「寄り添う」
利用者との関わりに悩んだときは
この2つの援助方法を思い出してみてください
最後まで読んでくださった方
ありがとうございました

