「相手の気持ちを考えられるようになってほしい」

発達支援の現場で
保護者の方からこのような相談を受けることがよくあります

また、支援者として子どもの発達を見て
子どもに対し

  • 相手の気持ちを読み取るのが苦手な子である
  • 人の気持ちを考えずに発言してしまう子だ
  • この子は場の空気を読むことが難しい

といった評価をすることがあります

そういった「場の空気」「人の気持ち」について考えるとき
支援の中で活用される方法のひとつに
SST(ソーシャルスキルトレーニング)

というものがあります

しかし僕は
児童発達支援や放課後等デイサービスで支援・個別支援計画作成・家族対応に携わる中で
「相手の気持ちを理解できるようになる」ことを
そのまま支援目標にしてよいのだろうか
と感じることが何度もありました

なぜなら
相手の本当の気持ちを完全に理解することは、大人であっても難しいからです

この記事では

  • SSTとは何か
  • 「相手の気持ちがわからない」という評価の注意点
  • 支援者はどこを見ればよいのか
  • SSTを具体的な支援目標につなげる考え方

について、発達支援の現場経験をもとに解説します

結論から言えば
「相手の気持ちを当てる」ことよりも
「相手の様子を見て考え、自分の行動を選ぶ」ことを支援する

この視点を持つと
SSTの目的や個別支援計画の目標がかなり考えやすくなります

SSTとは|社会生活で必要な行動を練習する方法

SSTは
Social Skills Training(ソーシャルスキルトレーニング)の略です

簡単に言えば
人と関わったり、社会生活を送ったりするときに必要となる行動を、分かりやすく練習していくことです

厚生労働省の資料では
SSTを「子ども自身が、状況に応じてどのように行動したらよいかを、日常生活場面とは別の場所で練習すること」と説明しています

たとえば

  • 順番を待つ
  • 負けたときの気持ちを切り替える
  • 相手にお願いする
  • 断り方を練習する
  • 困ったときに助けを求める
  • 相手の表情や状況を見て行動を考える

などもSSTの対象になります

難しい理論から入るよりも
「こんなとき、どうしたらいいかな?」を一緒に考えて練習する
くらいからイメージすると、現場では使いやすいと思います

「相手の気持ちを読み取るSST」で起こりやすい勘違い

発達支援では絵カードやイラストを使って

スタッフ

登場する人やキャラクターの表情から、気持ちを推察してみよう

スタッフ

この子はどんな気持ちかな?

と考える活動を行うことがあります

たとえば
泣いている子どもの絵を見せて
「どんな気持ちだと思う?」
と聞いたり

友達同士のトラブル場面を見せて
「このとき、どうしたらよかったかな?」
と一緒に考えたりします

これらも一種のSSTですが
こうした活動と支援そのものに問題は感じません
僕自身も、似たような支援を行います

ただし注意したいのが
「このトレーニングをすれば、人の気持ちが分かるようになる」
と誤認してしまうことです

そもそも「人の気持ちを正確に読む」のは難しい

たとえば
目の前に泣いている人がいたとします
「悲しいのかな?」
と思うかもしれません

でも実際には

  • 悲しくて泣いている
  • 悔しくて泣いている
  • 嬉しくて泣いている
  • 痛くて泣いている
  • 感情が混乱して泣いている

など、泣いている理由にはさまざまな可能性があります

表情だけを見て、その人の本当の気持ちを完全に当てることはできません

これは発達に特性のある子どもだけに限らず
僕たち大人でも同じです

だから僕は
「人の気持ちが分からない」
ということを、単純にその子の課題と決めつけないことが大切だと考えています

大切なのは「正解を当てること」ではなく「考えてみること」

では、SSTでは何を練習すればよいのでしょうか

僕が重要だと考えているのが
相手の様子や状況を手がかりにして、可能性を考えることです

たとえば

友達が泣いている
↓
「悲しいのかな?」
↓
「大丈夫?」

と声をかけてみる

あるいは

友達が何かを探している
↓
「困っているのかな?」
↓
「一緒に探そうか?」

と声をかけてみる

こんな流れです

ここで重要なのは
推測した気持ちが100%正解だったかどうかではありません

相手を見て
「どうしたのかな?」
「自分に何かできるかな?」
と考え
自分なりの行動を選べたこと自体に意味があります

目標設定は「見える行動」で考える

個別支援計画を作るとき
たとえば
「相手の気持ちを理解できるようになる」
と決めてしまうと
何をもって達成とするのかが分かりにくくなります

そういった抽象的な目標ではなく
もう少し観察・評価がしやすくなるよう設定するのが望ましいです

具体的な目標とは

  • 相手の表情や様子を見て、どのような状態かを考える
  • 相手が困っている様子に気づき、職員と一緒に対応を考える
  • トラブル場面を振り返り、別の行動を一つ考える
  • 絵カードを見て、登場人物がどのように感じている可能性があるか考える
  • 相手の反応を見ながら、声のかけ方を選ぶ

こうすると
実際の支援場面で観察しやすくなります

国立特別支援教育総合研究所も
相手の気持ちを想像することが難しい子に対して
抽象的に注意するだけでは「どうすればよいのか」が分かりにくいため
具体的な行動を教えることが重要だとしています

支援でも
「人の気持ちを考えよう」
だけではなく
「じゃあ、この場面では何を見ればいい?」
「どう行動すればいい?」
まで具体化することが大切です

「笑っている」からといって必ず楽しいとは限らない

SSTにおいてもうひとつ意識したいのが
表情だけで判断しないことです

人の状態を考える材料には

  • 表情
  • 声の大きさ
  • 声のトーン
  • 身体の動き
  • 相手との距離
  • 直前に起きた出来事
  • 周囲の状況
  • 本人が実際に言った言葉

などがあります

たとえば「笑っている」からといって
必ず楽しいとは限りません

逆に、表情だけでは分からなくても
「やめて」
と言っているのであれば、それは非常に重要な情報
です

SSTでは
「この顔は怒っています」
と表情と感情を単純に結び付けるだけではなく
「どんなことがあったのかな?」
「何と言っているかな?」
「身体はどう動いているかな?」

と複数の情報を見る練習にすると、より実際の生活に近づきます

正解探しのSSTにしない

SSTをすると
支援者が思い浮かべている「正解」
に子どもを誘導してしまうことがあります

たとえば支援の中で子どもに絵カードを見せ

スタッフ

この子はどんな気持ち?


と聞いて、子どもが

子ども

分からない

と答えたとします

そこで

「悲しいんじゃない?」
「ほら、泣いてるでしょ」
と正解を教えるだけになってしまうと

気持ち当てクイズ
になってしまうことがあります

もちろん、分からないときにヒントを出すことは必要です
でも
「泣いているね」
「さっき○○があったね」
「どんな気持ちの可能性があるかな?」

のように

考えるための手がかりを一緒に探します
そして
「悲しいかもしれないね」
「悔しい可能性もあるね」

と、複数の可能性があることも伝えます

人の気持ちは一つの正解にできないからです

「分からないから聞いてみる」も立派なソーシャルスキル

僕が特に大切だと思っていることは
相手の気持ちが分からなければ、確認してみるのもアリ
ということです

「大丈夫?」「嫌だった?」
「一緒にやる?」
「手伝おうか?」

こうした言葉も立派なコミュニケーションです

相手の気持ちを完璧に読み取れる人になる必要はありません

分からないときに

  • 確認する
  • 聞いてみる
  • 少し距離を取る
  • 大人に相談する

といった方法を持っていることも重要です

これは子どもだけでなく、僕たち支援者にも当てはまります

厚生労働省も子どもとの関わりについて
こちらの考えを先に決めつけるのではなく
まず本人の気持ちや状態を聞き、受け止めることの重要性を示しています

【外部リンク:厚生労働省「子どものこころと向きあう」】

SSTは日常生活につながってこそ意味がある

絵カードを使ったSSTでは上手に答えられる

でも実際の遊びになるとトラブルになってしまう

これは珍しいことではありません
練習場面と実際の生活では

  • 周囲の音
  • 感情の高まり
  • 相手の反応
  • 疲れ
  • 勝ち負け
  • 予想外の出来事

など、条件が大きく違うからです

SSTで正解できたから、実生活でもできる
とは限りません

スポーツでも、練習でできたから
本番でもできる、とは言えませんよね

SSTはあくまでトレーニング(練習)です

「友達が困っていたら、どうする?」
↓
「大丈夫?と聞く」

という練習を重ね
支援者は実際の遊びで観察をします

友達がおもちゃを探して困っている
↓
本人がその様子に気づいた
↓
「探そうか?」と声をかけることができていた!

ここまでつながって初めて
生活の中で使えるスキルになってきた
と考えることができます

支援者は「できなかった場面」だけを見ない

もう一つ注意したいのが
できなかったことばかり探さないことです

たとえば
友達が泣いているときには
「大丈夫?」
と声をかけることができた

一方で
友達が物を探して困っているときには気づかなかった

この場合
「相手の気持ちが分からない」
と評価するよりも

  • 「分かりやすい表情の変化には気づけている」
  • 「表情に出にくい困りごとには気づきにくい」


と考えた方が、その子の状態を具体的に捉えられます

すると次の支援も
「人の気持ちをもっと考えましょう」
ではなく
「表情だけでなく、相手の行動や周囲の状況にも注目してみよう」
と設定できます

これがアセスメントだと僕は考えています

支援計画を作っていて感じた違和感

僕自身、放課後デイで働いていると

あの子は相手の気持ちが読み取れない特性があるから、、、

うちの子には、人の気持ちがわかるようになってほしい

といったお話を保護者からよく聞きます

そんなとき

わかります。でもそれって、大人でも難しいことですよね

と伝えてみると、かなりの確率で

確かに…

となります

支援計画には、保護者の意向も反映されますが
聞き取りをしながら計画を作成する際
上記のような
「人の気持ちをわかってほしい」といった意向をそのまま反映させ
支援目標を「人の気持ちがわかるようになる」と設定すると
評価が難しくなります

そもそもその目標は達成できるものではないですし

なので、意向を汲み取ったのであれば

  • 相手の表情や言葉に気づき、気持ちを考えられる
  • 分からない時に、相手へ気持ちを尋ねることができる
  • 相手の話を聞き、気持ちを言葉で確認することができる
  • 遊びの中で相手の様子を見て、行動を選ぶことができる
  • 自分と相手の気持ちの違いに気づくことができる

といった設定の仕方が良いのではないでしょうか

SSTで大切なのは「人の気持ちを当てる力」ではない

ここまでの内容を一旦まとめます

SSTで相手の気持ちについて考えるとき
「相手の本心を正しく読み取れるようになること」
をゴールにする必要はありません

相手の様子を見る
↓
相手の状況を見る
↓
「どうしたのかな?」

と考える
↓
必要なら聞いてみるのもアリ
↓
自分はどうするか決める

↓
行動に移す

これらは練習できます
そしてそれぞれの段階を
実際の様子を見て観察・評価することもできます

「相手の気持ちを理解する」という
大きく抽象的な目標を
本人が実際にできる小さな行動へ分解する

この視点を持つことが
支援者の大切な役割といえます

「慮る」を知る

「慮る(おもんぱかる)」とは
相手の気持ちや事情、立場などをあれこれ考え、思いを巡らせることです

相手の気持ちは、完全に当てることはできません
それでも

  • 「どんな気持ちかな?」
  • 「何か困っているのかな?」
  • 「自分にできることはあるかな?」

と考えることはできます

SSTで大事にすることは
「正解を当てる力」ではなく
相手を慮ろうとする姿勢なんじゃないのかな?
と、僕は思っています

そして、さらに遠くの人や会えない人のことまで考えるなら
「思いを馳せる」
という日本語もあります

目の前の相手だけでなく
まだ知らない誰かのことまで想像できる
そんな力も、人と生きていくうえで大切なのではないかと僕は思います

まとめ|「相手の気持ちが分かる」より「相手を見て考えられる」を目指す

SSTは、子どもが社会生活の中で使えるさまざまな行動を練習する方法です
その中には、相手の表情や状況から気持ちを考えるという練習もあります

しかし

「人の気持ちが分からないから、人の気持ちが分かるようにする」
だけでは、支援目標として少し曖昧です

相手の本当の気持ちは、誰にも完全には分かりません

だからこそ

  • 相手の様子を見る
  • 状況を確認する
  • いくつかの可能性を考える
  • 分からなければ聞いてみる
  • 状況に合った行動を選ぶ

こうした具体的な力に分けて支援していくことが大切です

子どもたちが将来、少しでも

人のために何ができるかな

と少し立ち止まって考えられる
そして、自分なりの方法で人と関われる
そんな姿がたくさん見られたら、とてもステキですよね

日本語には
「慮る」
「思いを推し量る」
という言葉があります

どちらも
相手の気持ちや立場を想像しようとする言葉です

そして、少し変化球かもしれませんが
「思いを馳せる」
という言葉もあります

目の前にいる人だけではなく

  • 遠くにいる人
  • 今は会えない人
  • 自分の知らない場所で生活している人

そんな人たちのことまで想像してみる
それもまた、とても風情のある人との関わり方だと僕は思います

すべての人の気持ちを正しく理解することはできません
それでも
「あの人は今、どんな気持ちだろう」
「自分にできることはあるかな」
と思いを馳せることはできます

子どもたちがこれから成長していく中で
そんなふうに人のことを少し想像しながら
自分なりの行動を選べるようになる

SSTが、そのための小さなきっかけのひとつになればステキだなと僕は考えています

最後まで読んでくださった方
ありがとうございました

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